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2017年6月3日土曜日

連理の翼5 第1章の5



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本日より、ヤマトタケルの物語を再開いたします。
決して数多くはないと思うのですが、この物語を楽しみにしてくださっている皆様。
お待たせしました。

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「危ういところをお助けいただき、あらためて感謝申し上げます」
 オウスは、偉丈夫な男とその隣に座る少女を前に頭を下げた。
 吉備武彦とその娘、武媛であった。利発そうな大きな眼を、ずっとオウスに向けていた。
 古来よりの吉備の本拠地――阿曽の吉備武彦の屋敷にオウスら一行は保護されていた。児島の山中に拠点を置くアクラ王一党の攻撃による死地から、からがら救い出されたのだ。
「なに、あやつらとのいざこざは今に始まったことではございませぬ。たまたま皇子様の船をお助けできたというのは、まさに天の計らい、僥倖にございます」
 武彦の言葉に、あらっというようなまなざしを娘は向けた。それを受け、武彦は咳払いをする。
「敵の狼煙を見て船を出されたのですか。それにしてはご到着が早かったような」
 オウスはあの時の潮の流れが、吉備からは逆向きであったことに気づいていた。
「それにあのような場に、かような姫君をお連れになるというのも尋常でない」
 困ったように武彦は、娘に眼をやりながら続けた。
「じつは武媛が一人で船を出そうとしていたのです」
「一人で? あの大船を?」
 弟彦が驚き鸚鵡返しした。
「いや、小舟で出ようとしていたのです。従者たちが気づいて止めたのですが、どうしても行くと――『迎えに行く』といって聞かず……しかし、穴戸は今、娘が一人で渡れるような海ではありませぬ。そこでやむなく、私を含め、港を出たのです。そうしたら途中で奴らの狼煙に気づいた次第……」
「それでお助けくださったのですね」
 オウスは武媛に改めて眼を向けた。
「ならば、姫様にこそ深く御礼申さねばなりませぬ。――しかし、迎えに行く、とは?」
「強い光が現れるのを感じました。クロガネの強い輝きのような光でした。私はそれを迎えねばならぬと感じたのです」
 オウスは弟彦と顔を見合わせた。弟彦の表情にも困惑がある。
 はっはっは――と武彦は声を上げたが、何やらごまかすような笑い方だった。
「娘は巫女の血筋のようで、なにやら見えぬものが見えたり聞こえたりするらしいのですよ。――まったく、困ったもので」
「巫女――」
「大和姫様のような――」
 弟彦の言う大和姫は、オウスの父、オシロワケの妹であった。ミマキイリヒコ大王の娘、豊鍬入姫の跡を継ぎ、天照大神の御杖代となって、諸国を転々とその御霊を祭る土地を求め歩き、ようやく伊勢にその地を定めたという。大和姫も巫女として才覚を秘めた女性だという話だけはオウスも聞き及んでいた。
「わたしには大和姫様のようなお力はございません」
 まだオウスよりも年若いであろう少女は、しかし、神秘的な雰囲気をどこか漂わせていた。その眼がオウスから彼の背後に控える娘、イチフカヤに移るをのを気にせずにはおれなかった。
「何事か娘の霊力に感応するところがあったのでしょう。皇子様の亡くなられたお母上、イナミノワカイラツメ姫様は母方がこの吉備の血筋です」
 武彦の言葉に弟彦が膝を叩くように応じた。
「そういえばそうでしたな。聞いたことがございます。皇子様のお母様も巫女のお血筋だと」
「母が……」
 そんな話は初耳だった。
 オウスとオオウス、双子の兄弟の母は、もともと播磨の国の者だった。その美貌が大和にも知られるところとなり、オシロワケ大王は妻問いに播磨に来たといわれる。(妻問い=求婚)
 ワカイラツメは身を隠してかわそうとしたが、オシロワケに探し出され、城宮で強引に婚姻関係を結ばれてしまう。大和の大王の妻問いを断りぬくことなど、そもそも難しい話であり、それ以上にオシロワケの戦好き女好きは知れ渡っていた。
 そうして生まれたのがオウスとオオウスである。
 だが――

 ――もうお許しください!
 母のことを想起するとき、オウスの脳裏によみがえるのは母の悲痛な叫びだった。その叫びは、子供心に焼き付かれたようにいまだに痛烈なほどはっきりとしている。
 母は体が弱かった。にもかかわらず、余りある男の血気をもつオシロワケは、その精力で母の肉体を求め続けたのだ。
 母が急逝したのも、その行為のさなかであったことをオウスは知っている。
 5歳の時だった。
 城宮から運び出された母の亡骸を埋葬するため、兄弟も同行していた。印南川を渡ろうとしたとき、竜巻のような暴風がわき起こり、棺が誤って川へ落ちた。
 捜索されたが、母の遺体は見つからず――

 ただ母が使っていた遺品である櫛笥(くしげ)と朱の褶(ひれ)だけが見つかった。

 母の墓にはそれだけが埋葬されている。
 その後、兄弟は城宮から大和に連れていかれることになる……

「皇子様はそういう意味でも、我ら吉備のご姻戚にあられます。なんなりとお力にならせていただきます」
 武彦の言葉が、オウスの意識を現実に引き戻した。
「児島のアクラ王を討たねばならない。それが父よりの命だ」
「あの者どもには我らも手を焼いておりました。じつはすでに討伐の準備はこちらで進めておりましたところ。皇子様のお力添えをいただきますれば、かならずアクラ王を討つことができましょう」
「うむ。よろしく頼む。――それと」
 オウスは背後のイチフカヤをわずかに顧みた。
「この娘を預かってはもらえぬだろうか。仔細は話すことができぬのだが、大和には連れて帰れない」
「わかりました」
 武彦は硬い表情のまま応えた。
 すっと武媛が立ち上がった。そして、オウスのそばを通り抜け、腰を低くしてイチフカヤに手を差し伸べた。
「おいでください。わたしがご案内いたします」
 半ば怯えを映す眼をオウスの背に揺らがせたのち、イチフカヤは武媛の手を取って立ち上がった。



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