木更津でJRを下り、レンタカーの軽4を走らせているときでした。
車にはナビが装備されていましたが、いつも自分が使っているものと操作が違うこともあり、もう一つうまく設定できていませんでした。
目的地は、鬼泪山(きなだやま)でした。
そこは現在の鹿野山のゴルフ場やマザー牧場というものあたりということはわかっていたのですが、すでに鬼泪山自体がちゃんとした形で残っていないのでしょう。
木更津からの道行は、若干、あいまいな点を残していました。
JRの電車の中から見ていてもわかっていたのですが、あたりはすっかり田園風景。
遠い山並みがおおらかです。
房総半島の山中へ入っていくと、案の定。
ナビはとんでもないあたりをご案内してくれました。
「こりゃ、どう考えても違うよな~」
と判断できる、ゆるやかな山の斜面に開けている村の狭い道。
地形的にこれがどこかへ抜けているようには思えない。
少なくとも目的地に通じているようには思えない。
私は軽4を停め、すぐ近くの畑で農作業をしている女性に声をかけました。
私の母よりも若干、年が下? 70代くらいの方でした。
「すみませーん! あのー、鬼泪山に行きたいんですが、どちらかわかりますでしょうか?」
尋ねると、その女性は近くで小さな耕運機を動かしていたご主人を呼びに行きました。
すると、耕運機を止めたご主人が、ひょこひょこやってきました。
「なんだ、鬼泪山ぁ?」
ご主人はすぐに話し出すと、そこらへんの石垣に腰かけました。
そして、悠揚迫らぬ仕草で、胸のポケットから煙草を取り出し、火をつけました。
うまそうに煙草をふかし、くゆらせます。
「あんた、どっから来たん?」
「岡山です」
「岡山?」
そんな遠くから物珍しい、というような調子で。
そしてまた煙草を味わっています。
「またなんで鬼泪山なんか」
きらっと、その眼が中点の太陽の光をはじきます。
「いや~、古い言い伝えのある土地を歩いていまして」
「ふうん。あんた、どっちから来たの。道は」
「あ、あっちです」
なかなかその場所の情報が出てこない……
「なら戻らないといけんね。少し戻って、ゴルフ場に行く道があるから、そこを左。鬼泪山はそのゴルフ場のあたりだよ」
「そうですか。ありがとうございます」
なんだか聞くだけ聞いて、さっさと立ち去るのも失礼かと思うような、ゆったりとした雰囲気がその方にはありました。
なんとなく、まだ話していたそうなムードが。
その方はあたりの山の説明やら、村の神社の説明もしてくれました。
近くのお山に村の氏神様が祀られているようです。
私はお礼を言い、その場を離れました。
「気ぃつけてな。ゴルフ場へ行く道は狭いから」
そんなことも言ってくださいました。
そして、煙草をくゆらせていました。
その方の……
煙草の煙が出てくるお鼻の穴から
ドバッ!
と。
鼻毛が飛び出していました。
それも白髪半分。
私はお話している最中、どーしてもその方の鼻毛が気になって気になって……
でも、その気取らなさに、すごく好感を持っていたのでした。
車に戻ってから、ついにやにや笑ってしまいましたが。
なんというのか、善意にあふれた方でした。
でも、なんとなくわかるのですが、きっと物珍しい人間が来たので、農作業の合間の煙草休憩をしただけなんだろうな~と。
つまりいい休憩のネタが私だけだったような……(^_^;)
ご注意いただいた道は、確かに一般的では狭い道なのですが、我が家は自宅周辺が車一台分しか幅がありません。
2トントラックは入りますが、4トントラックはやばいです。
そんな環境で暮らしている身にとって、「こんなん、楽勝~~~♪」という道でした。
なにげない、ほんの一瞬の出会いでしたが。
なぜか私の脳裏に焼き付いた房総半島での出来事でした。
チャンチャン♪
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